環状14番染色体症候群とは

1. 概要

環状14番染色体症候群とは、染色体の構造異常によって引き起こされる、難治性てんかんと発達の遅れなどを特徴とする病気です。

2. 染色体とは

染色体とは

ヒトの設計図に相当する遺伝子は、ヒトの細胞の中で46本の染色体に格納されています。通常23本ずつご両親から受け継いでおり、23本のうちの1本が性染色体と呼ばれるX染色体またはY染色体です。性染色体以外の22本は常染色体と呼ばれ、大きいものから順に1番〜22番までの番号が付けられています。

遺伝子は、4種類の核酸と呼ばれる物質が連なることでできており、例えるならば4種類の文字だけで記述された文章のようなものです。それらの文章からなる1冊の本が「染色体」ということになります。染色体という名の本の中には、重要な文章(遺伝子)と、あまり重要ではない文章(遺伝子ではない部分)が含まれており、重要な文章に誤字や脱字があれば病気となり、あまり重要でない文章の間違いは病気としての症状は現れず、検査で偶然に見つかることもあります。

染色体は通常肉眼で観察することはできませんが、染色体を特殊な薬品を用いて染色すると、顕微鏡で観察したときに白と黒のバンドが見えるようになり、この方法をG分染法と呼びます。これにより染色体の観察が容易となり、細胞内の染色体の数や構造を調べることができます。

染色体の異常には、数の異常と構造の異常があります。数の異常は、例えば21番染色体が2本ではなく3本存在するダウン症候群が有名です。構造の異常は、染色体の一部分が欠けていたり、余分にくっついていたりするものがあります。本に例えると、乱丁や落丁のようなものです。染色体の構造の異常では、そこに複数の遺伝子が存在するため、症状は複数の臓器に渡ることが一般的です。

3. 環状染色体

環状染色体
環状染色体

それでは環状染色体とはどのような染色体なのでしょうか。

染色体の構造異常である欠失は、染色体の端っこに起こることが多いと言われています。欠失の生じた染色体の番号で、○番染色体末端欠失症候群などと呼ばれます。末端欠失が染色体の両端に生じてしまった場合、端と端がくっついてリング状になることがあり、それを環状染色体と呼びます。欠失の生じる染色体や、欠失の範囲によって症状はさまざまですが、前述のG分染法で診断可能です。

性染色体を含めすべての染色体で起こり得ますが、指定難病になっている環状20番染色体症候群が有名です。環状14番染色体症候群はあまり一般的に知られてはいませんが、14番染色体が環状染色体となってしまったために種々の症状が現れてしまう病気です。環状染色体の場合、細胞分裂の際の染色体の分離がうまく行かず分裂できない(または分裂しても生存できない)細胞が生じてしまうため、番号に関わらず環状染色体であること自体が低身長や発達の遅れ、てんかんなどの原因となることが知られています。

4. 環状14番染色体症候群

4.1. 症状

乳児期に発症する難治性(治療抵抗性)のてんかんが主症状です。てんかん発作は生後3-6ヶ月頃から始まることが多く、部分発作(体の一部分から始まる発作)が特徴的です。発作は朝方や入眠時に起こりやすく、数日間続くこともあります。約半数の患者さんでてんかん重積状態(5分以上続く発作)を経験します。

知的障害、運動発達の遅れ、言語発達の遅れがほぼ全例で認められます。特に言語面の障害が顕著で、多くの方が話し言葉を獲得できません。自閉症スペクトラム障害の特徴を示すことも多く、アイコンタクトが乏しい、同じ動作を繰り返すなどの特徴が見られます。

身体的特徴としては、額が広い、鼻根部が平坦、口が小さいなどの顔貌の特徴があります。眼科的な症状(近視、斜視、網膜色素異常など)を伴うことがあり、定期的な検査が推奨されます。

また、免疫機能の低下により呼吸器感染症を繰り返す方も多く、重症な肺炎を起こすこともあります。その他、摂食障害による低栄養、脊柱側弯症なども報告されています。

4.2. 頻度

稀であると言われていますが、具体的な有病率はわかっていません。世界で80人以上の方が論文で報告されていて、日本でも数例の報告があります(すべての方が報告されるわけではありません)。しかし、生命に関わる染色体異常ではないこと、てんかんと発達の遅れといった、一般的に染色体異常を疑わない症状が主体であることを考えると、てんかんとしてのみ治療を受けている未診断の方が多く存在するのではないかと思います。

4.3. 遺伝形式

基本的に遺伝するものではなく、ご両親の生殖細胞が作られる過程もしくは受精卵からの発生段階で偶然起こったことが原因です。

環状染色体は精子形成を妨げるようで、男性からは基本的に伝わりません。ただ、極めて稀ではありますが女性から子孫に伝わることはあるようです。

4.4. 治療

治療

生まれながらにして持った染色体の構造異常が原因であり、根本的な治療法は現時点ではありません。症状に応じた治療、特にてんかんの治療が中心になります。

てんかんの治療には、バルプロ酸、カルバマゼピン、トピラマート、ビガバトリン、クロバザム、レベチラセタムなどの抗てんかん薬が使用されます。最近では大麻由来成分のカンナビジオール(CBD)が有効である可能性も示唆されています。完全に治癒する方はごくわずかで、多くの方は複数の抗てんかん薬を長期に飲み続ける必要があります。内服薬のみでは治療困難な方にはケトン食療法や迷走神経刺激術なども考慮されます。

栄養管理も重要で、体重増加不良や摂食障害がある場合は、小児栄養の専門家に相談し、必要に応じて経管栄養などの介入を検討します。

発達支援に関しては、早期から療育を開始し、理学療法や言語療法を受けることが望ましいです。コミュニケーション面では、言語聴覚士による評価と訓練が重要です。多くの患者さんが非言語的なコミュニケーション手段(ジェスチャーや絵カードなど)を使用することになるため、早期からの支援が必要です。

また、合併症の検査として、一度は眼科で眼底検査を、中耳炎を反復している方は耳鼻科で聴力検査を受けることが推奨されています。

4.5. 経過

てんかん発作は思春期以降、徐々に改善する傾向にありますが、完全に消失することは稀です。長期的な予後は、てんかんの重症度、感染症の合併、栄養状態などによって個人差があります。

乳幼児期はてんかんの治療を行いつつ理学療法や言語療法といった療育を受け、就学後は言語面や学習面で特別な支援が必要となります。

現在のところ指定難病にはなっておりませんが、種々の社会福祉サービスを受けることができますので、関係機関との連携が重要です。

4.6. 生活上の注意点

てんかん発作の症状にもよりますが、発作がコントロールできていない場合は怪我に注意が必要です。

感染を繰り返しやすい可能性があるため、風邪症状がある場合は早めに受診しましょう。

医療機関への通院のみならず、教育や生活での支援が必要となりますので、受けられる社会福祉サービスを主治医や自治体に確認しましょう。

5. 参考文献

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寄稿文ご協力:

医療法人社団かけはし
東小金井小児神経・脳神経内科クリニック
理事長 生田陽二先生(2024年11月)